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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)758号 判決

被告人

上野勇

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年六月に処する。

原審に於て生じた訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

前略

次に原判示第二の脅迫の点に関する所論に付いて按ずると、刑法第二百二十二條第一項の脅迫罪は、他人を畏怖せしめる意思を以て同條所定の法益に対し害惡を加えるべきことを通告するに因つて、成立し其の通告が害惡を他人に発生せしめる眞意に出でたこと、若くは害惡の通告に因り他人を畏怖せしめることを必要としないのであり苟も他人を畏怖せしめる意思を以て其の人をして畏怖せしめるべき危險ある害惡を通告するに於ては害惡の発生を欲望せず、若くは之が発生の可能を認識して居らなくとも將又他人に畏怖心を生ぜしめなくとも其の所爲は脅迫罪を以て論じなければならぬ。此の点に関する原判決挙示の証拠に拠れば被告人が原判示太田一雄を畏怖せしめる意思を以て同人に対し「ぐづ、ぐづ言うと中華の兵隊二、三十人を連れて來て、中華の國旗を掲げて此処に駐屯する」旨を申し向けたことが認め得られ、然かも本件訴訟記録並原裁判所に於て取り調べた証拠に拠るも、原判決の判示第二の事実認定に過誤あることは之を認め得られないから、縱令原判示太田一雄が所論のように畏怖しなかつたとするも、原判決が原判示第二の事実を認定して之を脅迫罪に問擬したのは正当であり此の点に関し原判決には所論のような違法の廉がない。之を要するに論旨は孰れからもするも其の理由がない。

茲に於て職権を以て原判決の法令適用の当否を調査するに、原判決は判示第二の事実として被告人が昭和二十四年二月九日午後六時頃原判示太田一雄を脅迫した旨の事実を認定の上、之が法令の適用として刑法第二百二十二條第一項を説示して居るに過ぎないけれども、原判決認定の右脅迫の罪は昭和二十三年十二月法律第二百五十一号罰金等臨時措置法施行後の犯行に属するが故に、之が法令の適用に際つては、宜しく刑法第二百二十二條第一項の外、同條所定の罰金額変更に関する前記罰金等臨時措置法中の閣令法條をも之を併せ適用しなければならなかつたのに拘らず、原判決が事茲に出でなかつたのは、其の法令の適用に誤があつて、其の誤が判決に影響を及ぼすことが明らかなものと謂わなければならぬ。

以下省略

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